データで見る1Fの汚染水対策(2017年12月)
写真: 請戸漁港の展望タワー(2017/12/3 撮影)
(図はクリックで拡大します。)
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■ 商用目的・商用サイトを除き、図表の無断引用・転載はご自由にどうぞ。
(但し出典を明記のこと。なお説明の追記など以外の無断改変は厳禁です。)
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これは、2017/12/3 に郡山市で行われた「第8回放射線計測勉強会」でお話しした内容に、
当日の質疑を踏まえて若干改稿、追記したものです。 内容としては
1F汚染水対策の現状と展望について、コンパクト、かつ実証的に解説できるように考えたつもり
ですが、ご意見・ご質問などありましたら、コメント欄もしくは twitter: @Kontan_Bigcat まで
頂戴できればと思います。
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当日はサブタイトルとして
「凍土遮水壁はうまくいっていないけど、1Fの汚染水対策は順調に進むようになった。
そこにはどういう事情があるのか?」
としていましたが、「凍土遮水壁はうまくいっていない」の部分にやや誤解があったようなので追記すると、
凍土遮水壁がほぼ計画通りに凍結し、壁自体に十分な遮水性があるのは間違いないでしょう。
しかし、依然として壁の内側には、以前より何割か減った程度の大量の地下水が流入しており、
地中の深い所(凍土壁の深さ30m以深)からの流入や、地表近くのごく浅い所(舗装の砕石路盤など)
からの流入などがあるのではないかと推定されています。
しかし、今のところはっきりした経路はわかっていません。
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目次
01.ALPS処理済み水の放出はオリンピック以降?
02.保有水の増加量は大きく減少
03.廃炉が終わるまで汚染水対策は続く
04.汚染水の増加量はどのようにして減ったのか ~ 地下水ドレンの汚染状況
05.海への汚染水流出は現状では少ない
06.地下水バイパスは失敗だった
07.ALPSの安定稼働までには1年以上かかった
08.遮水壁は期待したほど効果が出なかった
09.サブドレンの汚染上昇
10.まとめ1 汚染水対策は順調だが…
11.まとめ2 いくつかの構造的な問題
12.補足
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ALPS処理済み水の放出はオリンピック以降?
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01-1.ALPS処理済み水の海洋放出が、いつから、どのような方法で行われるかについては、目下
「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の結論待ちです。
しかし今のところあまり議論が深まっておらず、答申がいつまとまるのかは不明です。
(直近の委員会は、2017/10/23 に開催。)
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01-2.少なくとも2020年末までは(保守的な想定のケースでも)タンクに水を貯留しておく
ことができます。(今のところ、総計 137万m3 のタンク(更新含む)が計画ずみです。)
東京オリンピック・パラリンピックの後に放流開始、あたりが有力な線でしょうか?
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★資料01-1: 1F保有水の総量(タンク+建屋)
2016年の秋以降、水の増加ペースが大きく減少しました。
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★資料01-2: タンク保有水のシミュレーション/東電
(東電は、上の保守的な評価のケースのほかに、水の増加量が順調に減った場合の
シミュレーションも公表しており、そちらのケースでは「Sr処理水」の処理も完了します。)
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2016年の夏までは、タンク容量はずっと逼迫しており、ALPS処理水の海洋放出を
急がないとやばい、という空気があったのですが、現在は少し余裕があるため、
「一刻も早く海洋放出を」という緊張感はなくなりました。
(ちなみに、ALPS処理水を保有し続ける場合の影響については、2016/7/16に東電が
「ALPS処理水をタンクに貯留し続けた場合に廃炉作業に与える影響について」
という資料にまとめています。)
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01-3.中長期ロードマップ改訂版(2017/9/26 改訂)の中で、
地元の同意なしに放出することはない、という文言が明記されました。
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「液体廃棄物については、地元関係者の御理解を得ながら対策を実施することとし、
海洋への安易な放出は行わない。海洋への放出は、関係省庁の了解なくしては行わないものとする。 」
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というのがその内容です。もちろん、これ以前から、
「漁業者、国民の理解を得られない汚染水の海洋放出は絶対に行わない」
というふうに東電は明記していましたが、今回は(東電だけではなく)国の計画として明記されました。
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国が自ら縛りを厳しくしたばかりであり、早急な海洋放出はないと思われます。
H-3の海洋放出を支持する論客もたくさんいますが、「オリンピックへの風評被害」を
一番懸念しているのは、実は、政府/与党なのではないだろうか? と感じます。
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保有水の増加量は大きく減少
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02-1.1Fの総水量の増加ペースは、500m3/日 から 200m3/日 へと大きく減少しました。
2012年頃は 400m3/日のペースで増加していた1F構内の保有水(タンク+建屋の合計)は、
2014年頃からは 500m3/日のペースで増加していました。
しかし2016年の秋以降は、200m3/日のペースとなっています。
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★資料02-1: 保有水増加量と降水量 (前4週平均、1日当たり)
2016年の秋以降は、200m3/日のペース!
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★資料02-2: 保有水増加量と降水量 (前1年合計)
2012年~2013年にかけては、降水量が少なかったことも幸いしたことがわかります。
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02-2.タンクの建設は、現在、500m3/日のペースで行われているため、
事故以来初めて、安定的にタンク容量に余力のある状況となりました。
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02-3.タンクの余力を使って、建屋の滞留水を計画的に減らしてゆける状況となりました。
これこそ、汚染水対策関係者にとって「待ちに待った」状況! なのです。
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★資料02-3: 1~4号機タービン建屋水位
(注: 水位計の校正により、変動が大きかった週もあります。)
現在、東電の公表資料はOP→TP基準へ書き換えられています。
OPをTPに換算する場合、1T/Bでは、OP-1.457mがTPの値。以下同様に
2T/Bで、1.452m、3T/Bで 1.437m、4T/Bで 1.439m となっていますが、
おおまかな概算としては「OP-1.5m」がTP値と覚えておけば良いでしょう。
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★資料02-4: サブドレン設定水位(L値)/東電
注: L値とは、ポンプの起動水位のこと。(H値が、ポンプの停止水位)
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建屋の水位低下にあわせて、サブドレン水位を低下させていまが、最初に大きく低下
したあと、2016年の秋までは、低下できない状況が続いていました。これは、建屋の
水位が下がらなかった(建屋の水抜きが進まなかった)ためです。
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注: サブドレン水位は、建屋からの汚染水流出を抑えるため、
L値を、建屋水位+800 (+建屋滞留水の塩分濃度補正値) 以上
に保つように管理されています。
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02-4.建屋の滞留水を段階的に抜いてゆき、タービン建屋の水抜きを完了すること
こそが、当初からの目標。(今の計画では、2020年に達成。)
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★資料02-5: タービン建屋の水抜き計画/東電
上のグラフが、タービン建屋水位(2020年に水抜き完了の計画)
下のグラフは、建屋滞留水に含まれる放射性物質の総量。
建屋の水抜きに先行して、滞留水中の放射性物質の量が大きく減るのは、
間もなく「建屋滞留水浄化設備」が稼働するためです。
(予定では、3・4号機が2017年12月、1・2号機が2018年3月から稼働予定)
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「建屋滞留水浄化設備」は、サリーの余力を使って、建屋の滞留水を浄化して
建屋に戻す設備です。(建設中の増設サリー(第3セシウム吸着装置)が稼働すれば、
それも利用する予定となっています。)
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02-5.流入する地下水の多くが、タービン建屋の貫通孔の周囲から流入していると
推定されています。
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★資料02-6: 建屋貫通部の分布/東電
2017年11月現在のタービン建屋水位は、OP+2.3m(TP+0.8m)程度。
それを、タービン建屋床のOP-0.3m(TP-1.8m)まで水抜きする計画。
(現在のサブドレン設定水位(L値、2017/11/30~) は、OP+3.1m(TP+1.6m))
*
タービン建屋の水抜きを完了した後に、地下水の水位をタービン建屋の床
レベル(以下)まで下げることができれば、汚染水の増加量は激減すると
期待されています。(汚染水対策の当面のメルクマール。)
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廃炉が終わるまで汚染水対策は続く
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03-1.燃料デブリの冷却は、デブリの取り出しが終わるまで続きます。
(水による循環冷却が続けられるため。)
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注:東電は、燃料デブリに「万遍なく空気を吹き付ける」ことが可能なら、
計算上は、最速で2018年頃から空冷に移行できるとしています。
(しかし、今のところ実現は困難です。)
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03-2.炉心の水冷を続ける場合、放射性物質の溶出は一定のペースで続きそうです。
(燃料デブリの詳しい物性がわかっていないため、あくまでも状況からの推定です。)
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★資料03-1: 燃料デブリからのCs-137、H-3の溶出/原子力学会
2013年の資料: 建屋滞留水のCs-137、H-3濃度がほぼ一定になっている状況を報告
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★資料03-2: プロセス主建屋滞留水中のCs-137濃度
2017年初から、建屋滞留水のCs-137濃度が約1桁上昇。当初この現象は、復水器の汚染水
(事故直後に貯留されたもので、現在の建屋の滞留水より1~2桁高い濃度)を移送した
影響だと考えられていましたが、その後も上昇が続いているため、「滞留水のよどみの影響」
「原子炉建屋から移送を始めた影響」などではないかと推測されています。しかし、
2017年11月の時点では、原因ははっきりしていません。
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2016/7/19特定原子力施設監視・評価検討会で、規制委員会の更田氏から、
建屋滞留水を「2回浄化処理する」ことが提案されました。このアイデアに対して、
2016/8/18監視・評価検討会で東電は
「全ての水を移送して1回浄化しても、300日後にはもとの濃度になる」
という検討結果(P.12)を報告しています。
(その後、「建屋滞留水浄化設備」で、持続的に浄化処理を行う計画になりました。)
*
また、上記資料の P.11では、滞留水の Sr-90濃度についても、PCV(原子炉格納容器)
からの供給が続いていると推定しています。
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★資料03-3: 2・3号滞留水のCs-137とSr-90濃度/東電
*
03-3.原子炉建屋に流入する地下水も、いつまでも止められません。
量は不明ですが、基礎マットの「打ち継ぎ部」から、地下水の流入があるだろうと推定
されています。
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★資料03-4:基礎マットからの流入/東電
注: 打ち継ぎ部とは、コンクリートの打設が1日で終わらないために出来た、コンクリートの
不連続部分です。(ダムなどの構造物では、打ち継ぎ部が不連続にならないよう、
入念に処理が行われますが、1Fの場合、地下水を汲み上げて水位を低く管理する
前提だったため、そのような処理は行われていないようです。)
*
03-4.今後、より汚染の高い場所での作業が増えると、
作業に用いた水が汚染水となって発生しますが、その量も増加するでしょう。
(建屋や機材の除染/洗浄に使った水が汚染水となります。)
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03-5.燃料デブリ取り出しの本命は、あくまでも「格納容器の水張り」です。
しかし、PCVバウンダリ補修(トーラス部などの止水)を完璧に行うのは
困難だと考えられています。
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水漏れを少量に抑えることなら可能ではないか、という方針で技術開発が進められて
いますが、その場合、格納容器に水を張った後は、格納容器内からの汚染水発生量が
増えることが懸念されています。
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汚染水の増加量はどのようにして減ったのか ~ 地下水ドレンの汚染状況
*
04-1.先述のように、2016年の秋から、1Fの保有水の増加ペースは
500m3/日 → 200m3/日 へと激減しました。
これはどのようにして達成されたのでしょうかか?
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★資料04-1: 汚染水対策の概要(敷地断面)/東電
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汚染水を減らすためには、いろいろな対策が取られて来ましたが、2016年秋からの
減少に大きく貢献したのは、地下水ドレンから「建屋への移送」(汚染水として扱われる)
を、(大雨の時以外は)ほぼゼロに抑えていることです。
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04-2.地下水ドレンの取り扱いの話をする前に、地下水ドレンの配置と、
汚染状況を確認しておきましょう。
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★資料04-2: サブドレン・地下水ドレン系統図/東電
5ヶ所の地下水ドレンは海側に配置されており、いずれも海側遮水壁が出来る前は
海だった場所(新たな埋め立て地)に設けられています。(それぞれの井戸から
少し離れた場所に、水位制御用の観測井戸が設けられています。)
*
04-3.1号機の海側にある地下水ドレンA・B(集水タンクA系)は、Sr-90濃度が高く、
(全βが数千Bq/Lで推移していますが、地下水ドレンの場合、全β×0.5がおよそのSr-90濃度。)
また、H-3濃度もだいぶ下がりましたが、現在でも1,000Bq/L以上で推移しています。
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ドレンポンドA・Bは、Sr-90濃度が高いため、汲み上げ量を徐々に減らし、2017年4月以降は
汲み上げをほぼ停止しています。
(おそらく、観測井の水位がHH(警報水位)を越えそうな時だけ、汲み上げを行っている
と思われます。)
*
★資料04-3: 地下水ドレンポンドA、Bの放射能濃度
*
04-4.2・3号機の海側にある地下水ドレンC・D(集水タンクB系)は、ドレンポンドCのH-3濃度が
10,000 Bq/L程度と高く、H-3の汚染がなるべく他の井戸に広がらないよう、
ポンドCの水位を一番低めにして稼働しています。しかし、ドレンポンドDのH-3濃度
も上昇してきており、今後の上昇が懸念されています。
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また、2017年4月に、ドレンポンドA・Bの汲み上げを停止してからは、ポンドCの
Sr-90濃度は徐々に上昇し、2,000 Bq/L程度で推移しています。
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★資料04-4: 地下水ドレンポンドC、Dの放射能濃度
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04-5.4号機の海側にある地下水ドレンE(集水タンクC系)のH-3濃度は、300 Bq/L程度で
安定しています。しかしこの場所でも、Sr-90濃度は 100 Bq/L以上(全βで200 Bq/L以上)
あり、OP+4m盤(TP+2.5m盤)の地下水汚染が、広範囲に広がっていることがわかります。
*
また、地下水ドレンポンドEは目詰まりが進行しており、近々、観測井Eからの汲み上げに
変更される予定です。多量の地下水を汲み上げている状況では、将来的には、
他のドレンポンドも目詰まりが進行することが懸念されています。
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★資料04-5:地下水ドレンポンドEの放射能濃度
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04-6.OP+4m盤(TP+2.5m盤)の地下水汚染は、1-2号機取水口間で特に高く、
ウェルポイント(20m3/日程度を汲み上げ)のSr-90濃度は 200,000 Bq/L程度
(ウェルポイントでは、全βとSr-90濃度はほぼ同じ)、H-3濃度は 20,000 Bq/L程度
で推移しています。(ウェルポイント汲み上げ水は、全量を建屋に移送しています。)
*
地中での汚染の拡散経路や速度はわかりませんが、将来的には、
地下水ドレンのSr-90濃度がさらに上昇することも懸念されます。
OP+4m盤(TP+2.5m盤)の地下の汚染については、将来的には、さらなる対策が
必要になるでしょう。
*
★資料04-6: 1-2号機間ウェルポイントの放射能濃度
*
04-7.以上見てきたように、地下水ドレンポンドA・B・C・D(中継タンクA・B系)については
汚染が高かったため、稼働した当初は、ドレンポンドE(中継タンクC系)以外の汲み上げ水を、
全てく建屋に移送していました。
*
2015年の秋に、サブドレン、地下水ドレンの汲み上げが開始され、海側遮水壁が
閉合されました。これに伴い、建屋への地下水+雨水の流入量は減少したのですが、
地下水ドレン中継タンクA系・B系の両系統の汲み上げ水を建屋に移送することになり、
このとき、汚染水の増加量は逆に増えてしまいました。
*
★資料04-7: 汚染水増加量の内訳(前4週平均)
ウェルポイント・地下水ドレン汲み上げ水(オレンジ色)が、2015年秋から増えたが、
2016年の秋以降、大きく減っている様子がわかります。
*
★資料04-8: 汚染水増加量の内訳(前7日平均)
上のグラフと同じ内容だが、「ALPSの薬液注入量」を「建屋流入量」と分けている。
(これ以前については、ALPSの薬液注入量が公表されていない。)
*
注: ALPS処理は、鉄共沈(鉄イオン薬液を加えて、金属類を沈殿)→フィルターで漉す、
炭酸塩共沈(炭酸ソーダを加えて、さらに沈殿形成)→フルターで漉す、
さらに吸着塔で吸着、というシステムですが、薬液の注入により、処理済み水の量が
6%程度増えてしまいます。(ALPSの稼働量により、薬液注入量は増減しますが、
現在、20m3/日程度の薬液が注入されており、これは、汚染水増加量の10%程度と、
ばかにならない量です。このため、炭酸ソーダ薬液については、ダムから引いた水
ではなく、循環処理水を利用する計画が立てられており、まもなく認可される見通しです。)
*
04-8.2016年1月から、中継タンクB系(H-3濃度が高い)については、徐々に建屋ではなく、
サブドレン等処理設備への移送を増やし、2016年の秋以降は、B系のほぼ全量が
サブドレン等処理設備へ移送されています(大雨の時以外)。
*
これに伴って、サブドレン・地下水ドレン処理水(海に放出)のH-3濃度は徐々に
上昇し、現在は 1,000 Bq/L程度で推移しています(放出限度 1,500 Bq/L)。
*
★資料04-9:サブドレン・地下水ドレン放流水のH-3濃度/東電
*
2017/1/30 から、地下水ドレンの前処理(RO膜処理)設備が運用を開始しました。
これは、全βが 1,000 Bq/Lを超える場合を目安に、前処理を行い、Sr-90を低減する
設備です。(処理容量 480 m3/日)
*
04-9.海側エリアのフェーシングが進んだために、地下水の涵養量が減り、
「OP+4m盤(TP+2.5m盤)汲み上げ量」が減少しました。
また、これには、凍土遮水壁の効果も一定程度含まれるているでしょう。
*
★資料04-5:フェーシング/東電
注: 「フェーシング」というのは、「舗装」もしくは「屋根かけ」によって、
雨水が地下に浸透しないようにする対策です。
「舗装」の場合は、汚染された地面からの放射線を遮蔽する目的もあります。
*
★資料04-6: OP+4m盤(TP+2.5m盤)汲み上げ量
2016年の夏までは、20mmほどの降雨でも4m盤汲み上げ量はスパイク的に上昇していたが、
2016年の秋以降は、100mm程度の降雨なら、ほとんど汲み上げ量が増えない
ことがわかります。
*
04-10.また、地下水ドレンの水位(4m盤水位)を警報水位ギリギリの高めに維持する
ことにより4m盤への流入量が少しでも少なくなるようにすることも行われています。
(本来、このような運用はよろしくありません。)
*
★資料04-7: 地下水ドレン水位差と4m盤流入量/東電
凍土遮水壁(海側)の内外水位差と、4m盤への地下水流入量(東電による推定値)
には良い比例関係があり、水位差を少しでも小さくすることにより(4m盤の水位を
警報水位ぎりぎりの高さで維持することにより)、4m盤への地下水流入量を抑える
ことが行われています。
*
近い将来、タービン建屋の水抜きに伴って、建屋周辺の水位(サブドレン水位)も下がり、
建屋周辺と4m盤の水位差がなくなれば、4m盤への地下水流入量はほぼゼロになる
のでは、と期待されていますが、実際にそうなるかどうかはわかりません。
*
04-11.先述したように、建屋の水位低下にあわせて、サブドレンの水位も低くなり、建屋への
地下水流入量は減少しました。(これには、サブドレン-建屋の「水位差」が減った効果
と、サブドレンの水位が低下し「地下水位より下の建屋貫通部」が減った効果の両方
があります。また今後は「水位差」がこれ以上は縮まらないことに留意が必要です。)
*
★資料04-8: サブドレン(平均)水位と建屋流入量/東電
*
★資料04-9: サブドレン汲み上げ量
サブドレンでは、降雨によるスパイク的な汲み上げ量の上昇が今でも見られます。
これは、建屋周辺では、ほかの作業の継続や高線量などのため、フェーシングが
あまり進んでいないためです。(線量低減のため、事故後の初期に鋼板が敷かれた状態。)
*
また、2016年の夏までは、井戸や配管の詰まり(付着物)の清掃のための停止も多くあり、
サブドレンの運用はなかなか安定しませんでした。現在も、計画的な清掃のための停止は
行われていますが、サブドレンの運用状況は、以前に比べると安定していまする。
(これは、建屋周辺の地下水位が、より安定的にコントロールされていることを意味します。)
*
04-12.タービン建屋等の屋根の補修が進められており、雨水の直接流入量が減少しました。
(量的な評価は行われていません。)
*
しかし、タービン建屋の山側にある付属的な建屋群では、線量が高く、アプローチが
難しいなどの理由で、屋根の除染・補修はあまり進んでいません。
*
海への汚染水流出は現状では少ない
*
05-1.海側遮水壁は、おおむね健全で、遮水性能が高いのは間違いないでしょう。
*
★資料05-1、取水口内北側、海水の Sr-90濃度
海側遮水壁の閉合により、2桁程度低下しています。
その後、上昇している時もあり、これは、降雨との関連が強いのですが、降雨とは無関係に
上昇している時もあり、Sr-90の海への流出経路には、まだわからないところもあります。
*
また、2013年6月に、護岸からの汚染水流出が問題化されるとすぐに、
水ガラス注入壁によって、地下水からの放射性物質の流出を抑えようとしました。
しかしこれについては、対策の効果はあまりはっきりしません。
*
★資料05-2、取水口内北側、海水の H-3濃度
H-3濃度は、1桁程度低下しています。
*
05-2.海側遮水壁の問題点は「多重的でない」ことです。
1重の壁なので、どこかが破損すれば、再び汚染水が海に出てしまいます。
*
また、海側へ少し「倒れ」ている点にも、今後の注意が必要です。
(現時点では、地震時でも問題ないと評価されていますが、これ以上変位が進行すると、
地震時の変形が許容量を超える懸念があります。)
*
★資料05-3 、海側遮水壁の倒れ/東電
注:東電は「たわみ」(応力による部材の変形)と呼んでいますが、
水面から4m程度の水圧・土圧ではこれほど大きな変形は生じません。
これは、「たわみ」ではなく「倒れ」と呼ぶのが妥当でしょう。
*
海側遮水壁の鋼材そのものの耐久性は実績があり、海洋で使用しても数10年は
大丈夫でしょう。(電気防蝕により、鋼材本体の腐食を抑えています。)
しかし、総延長の長い「継手」の全てが、長期的に健全性を保てるかどうかは不明です。
*
また長期的(数十年後?)には、遮水壁の下端を回り込んで、 汚染水が海に出る
ことが懸念されます。(土中でのSr-90の拡散は時間がかかりますが、H-3の拡散は
意外と早いかもしれません。)
*
05-3.放射性セシウムの、海への流出経路は良くわかっていません。
*
★資料05-4: 取水口内北側、海水の Cs-137濃度
現在、春先に低く、夏場に高くなる季節変動が見られますが、濃度が高い日は降雨との
後と決まっていますので、これは降雨による、排水溝からの流入の影響でしょう。
(注:降雨により港湾内のCs-137濃度が上昇する現象は、海側遮水壁の閉合前からあった。
のですが、その時は、降雨による海側トレンチからの流出の影響のほうが大きかった
かもしれません。)
*
このグラフをよく見ると、実は、海側遮水壁を併合した2015年の秋からではなく、
2014年の冬から減少していることがわかります。これは恐らく、海側トレンチ閉塞を
開始した効果ではないかと思われます(閉塞完了は2015年12月)。
*
ここで問題なのは、2013年→2016年 で、一桁も減っていないことです。
*
★資料05-5: 排水路からの放出量評価/東電
排水路の中で、最も汚染の高いK排水路から流出する放射性セシウムは、護岸からの
流出量の1/10程度、その他の排水路からの流出量の合計は、K排水路の数分の1程度
と評価されていました。
*
この評価が正しければ、現在、K排水路の汚染状況は、2015年当時よりもだいぶ
改善されていますので、少なくとも1桁以上は低下しそうなのですが、そうなっていません。
Cs-137の港湾への流出量は、排水路からだけでは評価では説明が付かないのです。
あるいは、過去の評価も、見直す必要があるのかもしれません。
*
05-4.1F港湾内の海底には、放射性セシウムが封じ込められています。
*
2011年11月採取の、1F港湾内海底土のCs-137濃度は、取水口内で数10万Bq/kg・湿土、
港湾内のその他の場所で数万Bq/kg・湿土ありました。
(Sr-90その他の核種については、こちら。)
*
この流出を抑えるため、2012年から2016年にかけて、ベントナイトとセメントを混ぜた材料で
1F港湾の海底全体を被覆する工事が行われました。
(この工事の概要については「港湾内海底土被覆工事」で検索すると出てきます。)
*
★資料05-6: 港湾内海底土被覆工事/東電
港湾内全体に、2回(2層)被覆が行われました。
*
その後も、港湾内の海水のCs-137濃度の鉛直的な調査などが定期的に行われ、
現状では、海底土の被覆は安定しており、海底からのCs-137の溶出は少ないと
考えられています。(但し、長期的な安全性は不明です。)
*
一方、海底の被覆後も、流入したCs-137の一部は、港湾内で凝集・沈降しているので、
現在は、被覆の上に、放射性Csを含む堆積物が、蓄積しているはずです。
しかし、1F港湾内でのこうした Cs-137の動態は、あまりよくわかっていません。
*
注:福島沖の外洋での、海底土のCs-137の動態は、規制庁の調査などにより、
いろいろな知見が積み重ねられています。
海上技術安全研究所 「海域における
放射性物質の分布状況の把握」(報告書)
海洋生物環境研究所 「海洋環境における放射能調査」(報告書)
また、魚への影響については、水産庁HPの末尾に
水産総合研究センター 「放射性物質影響解明調査事業」(報告書) があります。
*
05-5.港湾外では、海水中のCs-137濃度はゆっくりと減少を続けています。
*
★資料05-7: 南放水口南1.3km、海水の放射能濃度
Cs-137については、週1回の詳細分析結果をプロット。
*
★資料05-8: 5・6号機放水口北側、海水の放射能濃度
*
05-6.1Fから少し離れた地点では、Sr-90、H-3はすでに事故前の濃度と同じ程度で、
Cs-137も、事故前の数倍程度の濃度まで下がってきています。
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★資料05-9: 1F沖3km、海水の放射能濃度
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地下水バイパスは失敗だった
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06-1.事前の想定では、地下水バイパスで 1,000m3/日の水を抜くと、
(建屋周辺の地下水位も下がって)地下水流入量が 100m3/日 程度減る、
と想定されていました。
しかし、排水量は多いときで 400m3/日程度で、その後は、250m3/日程度
で推移しています。(なぜ、もっと排水しないのかは説明されていません。)
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★資料06-1: 地下水バイパス排水量
注: 1回の排水量を、前回排水からの日数で割った数字なので、
1日あたりの汲み上げ量を示したものではありません。
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事前のシミュレーションによる想定では、地下水バイパスをフル稼働
(12箇所の全揚水井戸の水位を底部まで下げる)した場合には、
建屋の山側の水位は 2~3m程度低下はずでした。
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★資料06-2:地下水バイパス断面図
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06-2.地下水バイパスは、2014/4/9から試験的に汲み上げを開始し、2014/5/21から
排水を開始しました。
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しかし、2014/7/25に、東電は、観測井(建屋から70m~150m)の水位が
最大で10cmしか低下していないと報告しています。
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2014/10/31の特定原子力監視・評価検討会 資料に、観測井水位のグラフが
公表されています。
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★資料06-3: 地下水バイパス稼働実績/東電
下の2つのグラフが観測井A,B,Cの水位ですが、
水位の低下はあまりなかった様子がわかります。
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同じ資料のP.15では「HIT建屋の止水と地下水バイパスの効果の合計として」
90m3/日程度の、建屋流入量の抑制効果がある、と評価していいます。
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一方で、2014/5/19の東電資料では、HIT建屋の止水工事による建屋流入量の
減少量を 80m3/日 と評価しています。 また、2014/7/31の資料では、
HIT建屋の止水工事による建屋流入量の減少量を 50m3/日 と評価しています。
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結局、地下水バイパス単独での評価は示されていないのですが、効果がどれほど
あるのかは疑わしいところです。 しかし、せっかく海への地下水の放出にこぎつけた
ものを「効果がほとんどない」と言うわけにはいかなかったのでしょう。
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ALPSの安定稼働までには1年以上かかった
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07-1.ALPSの試運転(ホット試験)開始から、安定稼働するまでには、
1年以上の時間を要しました。
ALPSはその後、現在に至るまで、大きなトラブルもなく稼働しているので、この
こと自体は既に過去の話です。しかし、今後もALPSと同様に、廃炉は新技術の
開発であり、想定通りのスケジュールで進むとは限らない、と考えるべきでしょう。
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★資料07-01: ALPS処理量
緑色がALPS処理タンクの増加量。その後、ALPS処理量が公表されるようになった
ので、そちらはオレンジ色で表示。(両者にズレがあるのは、Sr処理タンクへの移送が
あるため。)
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また、上のグラフの青線がアレバ(既に廃止)、サリー、キュリオンの処理量、
赤線が原子炉注水量です。原子炉注水量は今年はじめに、200m3/日程度まで
減らされています。
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ALPSは2013/3/30にホット試験を開始しましたが、安定して稼働できるようになったのは
2014年の夏頃からでした。同時期に、増設ALPS、高性能ALPSも安定して稼働できる
ようになったので、ALPSの処理量は 1,500m3/日程度まで増えました。
(現在でもこの処理能力がありますが、タンクの増設ペースに合わせた稼働になるため、
ALPSの処理能力は余っています。)
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07-2.また、ALPSのホット試験に際しては、規制庁から厳しい要求が出されたたために、
5ヶ月程度開始が遅れました。(容器の耐衝撃性に無茶な注文が付いたのです。)
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規制委員会は、安全性について厳しい要求が出せるのですが、スケジュールの管理には
責任を持たなくて良いので、こうしたことは、今後も起きるかもしれません。
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07-3.ちなみに、サリー(第2セシウム吸着装置)、キュリオン(第1セシウム吸着装置)
は安定して稼働しています。
(現在は、主にサリーのみで処理を行っています。)
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★資料07-02: キュリオンとサリーの入口水・出口水のCs-137濃度
2015年初に、Sr吸着塔を追加してから、キュリオンの性能はさらに
安定していることがわかります。
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現在、新たなサリー(第3セシウム吸着装置)を建設中です。(2017/9/28 認可ずみ)
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07-4.ALPSがなかなか安定して稼働できなかったため、2013年末から、Sr-90だけを
ある程度除去する対策が行われました。モバイル型RO膜装置による濃縮塩水の処理と、
サリー・キュリオンへのSr吸着塔の追加です。これらの処理を行った汚染水は
「Sr処理水」と呼ばれています。
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★資料07-03: 各処理水の貯蔵状況
Sr処理水の総量は 20万m3程度で、横ばいの状況です。
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ALPSが安定して稼働するようになってから、モバイルROによる処理は廃止されましたが、
現在でも、サリー・キュリオンから出てくる水は「Sr処理水」に該当します。
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Sr処理水のSr-90濃度は、現在は 10,000 Bq/L程度です。
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★資料07-03: Sr処理水とRO処理水の放射能濃度
出典: 2017/7/7 「1~4号機滞留水浄化設備設置について」(東電)
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凍土遮水壁は期待したほど効果が出なかった
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08-1.凍土壁はほぼ計画通りに凍結し、壁自体の遮水効果が高いのは間違いありません。
しかし、建屋周辺への水の流入量は、期待されたほど減っていません。
理由は不明ですが、より深い地層からの水の供給があるのではないか、と疑われています。
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2017/11/22の陸側遮水壁タスクフォース 議事概要 には、
「過去のボーリング調査の穴が適切に埋め戻されていない」可能性などを指摘して
いますが、確かめようもないことでしょう。また、(サブドレン汲み上げ水の)
「ラドンの量を測定」することにより、地下水の比率を推定することなども提案されて
いるようです。
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★資料08-1: 凍土遮水壁の深度/東電・鹿島建設
この深さまで凍結すれば大丈夫、と考えられていたのですが…、どこに問題があるのでしょう?
出典: 2013/12/20 陸側遮水壁タスクフォース 「凍土遮水壁の基本設計」
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★資料08-2: 建屋周辺の水バランスと降水量
建屋流入量と、サブドレン汲み上げ量、OP+4m盤(TP+2.5m盤)汲み上げ量の合計。
何割かは減っていますが、フェーシングの効果もあるでしょうから、凍土遮水壁の効果が
どれほどあるかは、はっきりしない状況です。
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★資料08-3: 山側からの地下水流入量/東電による推計値
上記の建屋流入量、汲み上げ量に、降雨浸透量、地下水位の上下(地下水の保有量)
などをざっくり計算して、建屋周辺への地下水流入量を推定した数字(東電による)。
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08-2.凍土遮水壁は、建屋周辺の地下水位を安定させるのには役立っています。
また、OP+4m盤(TP+2.5m盤)の汚染が広がるのを防ぐ役割も果たしていそうです。
凍土遮水壁は、もともとの計画では、7年程度で役割を終える予定でしたが、
もっと長期に運用することになるかもしれません。
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08-3.「建物の杭基礎が難透水層を貫通しているのでは?」という質問を受けましたが、
まず、原子炉建屋やタービン建屋は、泥質部(難透水層)に直接乗っています(直接基礎)。
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★資料08-4: 建屋周辺の地質/東電
1~3号機は第1泥質部に、4号機は第2泥質部に乗っています。
このため4号機の周囲では、中粒砂岩層と互層部は連通していると考えられます。
出典: 2015/11/17 陸側遮水壁タスクフォース 資料
*
但し、原子炉建屋、タービン建屋以外の、付属的な建屋については、杭基礎で
建てられているかもしれません。しかしその場合でも。杭は、第1泥質部(難透水層)
を突き抜けないように施工しなければなりませんので、杭基礎が難透水層を突き抜けている
可能性は低いと思われます。
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サブドレンの汚染上昇
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09-1.サブドレンの多くは、汚染はごく低い状態なのですが、
サブドレンのうちいくつかは、汚染の高い状態が続いていたり、汚染が上昇している
ものがあります。
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先述したように、サブドレン・地下水ドレン処理水のH-3濃度は、現在 1,000 Bq/L程度
で推移しており、これ以上、サブドレン汲み上げ水のH-3濃度が上昇した場合、建屋
に移送する量が増える可能性があります。
(これまでのところ、サブドレン汲み上げ水の建屋への移送は行われていません。)
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★資料09-1: サブドレン・地下水ドレン系統図(再掲)
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09-2.サブドレンNo.1(1号機海側)のH-3濃度は 10,000~20,000 Bq/Lと高かったため、
No.1と隣接するNo.2は、当初、稼働していませんでした。しかし、2016年の7月から
サブドレンNo.2の稼働を始めると、汚染が移行したためか、みるみるうちに、No.2の
H-3濃度も高くなってしまいました。
*
現在この2つの井戸は、間欠的に運転していますが、ここの水位は、ほかの井戸
よりも高い状況が続いています。
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★資料09-2: サブドレンNo.1,No.2 の H-3濃度
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09-3.サブドレンNo.9(1号機山側)のH-3濃度は、2017年の夏に急上昇しました。
(その後は、少し落ち着いています。)
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★資料09-3: サブドレンNo.9 の放射能濃度
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09-4.サブドレンNo.207 と、隣接する No.208 (2号機山側)の H-3濃度は、2017年の夏から
数千Bq/Lに急上昇しました。
*
★資料09-4: サブドレンNo.207 の放射能濃度
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★資料09-5: サブドレンNo.208 の放射能濃度
このH-3濃度の上昇は、サブドレンNo.208の強化工事(径の太い井戸に更新する工事)
を行い、誤って水位設定を低く設定した時期と同じなので、その影響のためかも
しれませんが、建屋からの汚染水漏れがあったかどうかは、何とも言えません。
(少なくとも「大量の」汚染水漏れは起きなかったと言えそうです。)
*
09-5.サブドレンNo.19 (2号機山側)は、当初はCs-137濃度が高かったのですが、
現在は、1,000 Bq/L程度まで下がっています。
この井戸のH-3濃度は 1,000 Bq/L程度で推移しています。
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★資料09-6: サブドレンNo.19 の放射能濃度
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09-6.サブドレンNo.25 (2号機海側)の H-3濃度は、このところ数千 Bq/L台で推移し、
上昇傾向にあります。また、Cs-137濃度も 1,000 Bq/L程度で推移しています。
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★資料09-7: サブドレンNo.25 の放射能濃度
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同じく2号機海側の サブドレンNo.27 では、2017年の4月頃から汚染が増え、
Cs-137、Sr-90、H-3の全てが 10,000 Bq/L程度まで急上昇しました。
(Sr-90濃度が高いのは、ほかのサブドレンに見られない特徴です。)
*
★資料09-8: サブドレンNo.27 の放射能濃度
この時期に、ちょうど2号機タービン建屋の屋根の補修工事が行われていたため、
タービン建屋の屋根の雨水を、サブドレンNo.27の近くに浸透させることにより、
一時的に汚染は低くなりました。
しかし現在、雨の少ない時期を迎えて、再び汚染が上昇しています。
*
まとめ1 汚染水対策は順調だが…
*
10-1.海に出る放射性物質の量は、海側遮水壁の閉合(2015年秋)以降、特に減少し、
現在では、周辺の海水中の放射能濃度にあまり影響を与えないレベルとなっています。
*
10-2.汚染水の増加量は減り、現在、タービン建屋のドライアップという目標に向けて、
汚染水対策は順調に進んでいるように見えます。
*
10-3.しかし、地下水ドレン・サブドレンの汚染(特にH-3濃度)の上昇が、
計画通りに対策が進むのを阻むかもしれません。
*
10-4.また、長期的には、海側遮水壁の健全性が損なわれるリスクを考慮する必要が
あるでしょう。
*
まとめ2 いくつかの構造的な問題
*
11-1.「地下水バイパス」の評価に見られるように、政府・東電には、廃炉作業に
おいて「失敗を認めにくい空気」があるのではないかと感じられます。
*
廃炉作業は技術開発そのものであり、(致命的でない)失敗は、
当然生じるモノとして、(社会的に)容認されるべきです。
*
かつての「安全神話」と同様な「無謬神話」が生まれるほうが危険でしょう。
情報をオープンにし、失敗の原因を調査・公表することのほうが重要です。
*
水を増やさない効果の点では失敗が明らかになってきた「凍土遮水壁」に、
政府・東電はどのような評価を行うのでしょうか?
また、原因の調査・究明・公表は行われるのでしょうか?
*
11-2.地下水や排水溝を経由した「意図的でない放出」は、現在、法規制の対象外です。
*
こうした「法規制のない」ことがらは、十分な調査が行われていませんでした。
(2015年から、排水溝については調査、低減が実施計画に記載されました。)
*
規制委や福島県などが積極的に関与し、もっと調査させるべきだと思います。
(私には、両者とも関心が低いように感じられます。)
*
11-3.事故初期は仕方ないとしても、事故から1~2年の間に「観測の空白」がありました。
*
★資料11-1: 1F 20km圏内のアイナメのグラフ
20km圏の魚介類の調査が始まったのは、事故から1年後。
1F港湾内の魚介類の調査が始まったのは、2012年12月からです。
事故後の初期に、どのような状況だったのか、今となっては知るすべがありません。
*
今となっては埋めようがない空白は、ほかにもいろいろあります。
*
11-4.「後世の人から見て恥じないよう」必要な記録を残すべきです。
*
一方でまた、重要度の低い測定・対策で資金・マンパワーを消耗しないよう
適切な評価が必要でしょう。
*
補足
*
12-1.おまけ: Discovery Channel 「フクシマ・ダイアリーズ」 (24分)
*
12-2.地下水バイパス汲み上げ水、サブドレン・地下水ドレン処理水のトリチウムの
排出基準は、事故前の排出基準(告示濃度) 60,000 Bq/L よりも大幅に低い
1,500 Bq/L と決められています。この理由については、
Togetter 「トリチウムの排出基準が 1,500Bq/Lなのはどうしてか」
を参照ください。
*
12-3.現在、1Fの水位管理は、「OP+基準」から「TP+基準」に切り替えられ、東電の
公表資料にはOP+による数字は記載されなくなっています(TP+値のみ記載)。
一方、これまでの資料はOP+で書かれていますので、OP+値とTP+値を換算する
必要があります。これについては、
Togetter 「サブドレン水位の設定ミスはなぜ起きたのか」
を参照ください。
*
サブドレン・地下水ドレン汲み上げ量まとめ(xlsx)→ ダウンロード - relay_tank.xlsx
サブドレン・地下水ドレンの水質分析まとめ(xlsx)→ ダウンロード - relay_tank_suishitsu.xlsx
*
既設ALPS(入口水、出口水) データまとめ(xlsx)→ ダウンロード - ka_alps.xlsx
増設ALPS(入口水、出口水) データまとめ(xlsx)→ ダウンロード - za_alps.xlsx
高性能多核種除去設備(入口水、出口水) データまとめ(xlsx)→ ダウンロード - he_hero.xlsx
*
(以下、関連リンクなどをもうすこし追記する予定です。)
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